採用情報:公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)

Jリーグのミッションとサステナビリティ

プロジェクト02
Jリーグのミッションとサステナビリティ

辻井隆行

執行役員(サステナビリティ領域担当)

アメリカのアウトドアアパレル企業パタゴニアの日本支社長を務め、社会/環境課題の解決を目指す活動などを推進。2019年11月に同社を退職。一般社団法人や企業の戦略コンサルなどを務めた後、大学サッカー部時代の仲間の紹介を受けてJリーグの社外理事に就任。2023年1月に執行役員となり、サステナビリティ領域の取り組みを推進している。

入江知子

サステナビリティ部 部長

大学卒業後、一般企業に入社するも「スポーツを通じて人の役に立ちたい」との思いから、あらためて筑波大学大学院に進学し、運動栄養学などを学ぶ。クラブへのインターンシップなどを経て2004年にJリーグへ入社。子どもの育成に関わるプロジェクトや新型コロナウイルス感染症対策などに取り組んだ後、2023年の立ち上げに合わせてサステナビリティ部の部長に就任。

どれだけ地域を元気にしても、持続可能な地球でなければ意味がない。

――「サステナビリティ部」発足の背景について教えてください。

辻井/Jリーグは今から31年前に発足しました。当初は8府県10クラブで始まったのですが、現在は60のクラブがあり、41都道府県でホームタウンの協定を結び、地域と共に成長していく方針を掲げています。

地域の成長を考える時、「Jリーグが地域を元気にする」という側面がある一方で、実際には、地域社会や経済に活力がなければサッカーだけが盛り上がることはありえないですよね。だからこそホームタウンという考え方を創立当初から大事にしてきました。

ホームタウンのなかで困りごとがあれば、それと向き合っていく。高齢者の方々が運動不足なのであれば、選手が行って一緒に体を動かす。障がいをお持ちの方が活躍する場がないのであれば、そういう場を創出するための取り組みをしてみる。

私自身は、こうした取り組みのことを理事になってから詳しく知りましたが、本当に素晴らしい活動だと思いました。その一方で、元気な地域社会の土台である地球環境が危機的な状態にあることが気になっていました。特に、気候変動の影響が日に日に強くなる中で、Jリーグとしても根本の問題に取り組まなければいけないはずだと感じ、サステナビリティ部という組織を発足することにしたのです。

実際に、2018年以降、集中豪雨や落雷、台風などの影響で中止になる試合が約5倍に増えています。元Jリーグ選手が行っているサッカー教室では、夏の人工芝が熱くなりすぎて子どもたちが足の裏を火傷して試合に参加できないという事態まで起きています。このままでは、サッカーはもちろん、スポーツそのものができなくなってしまうかも知れない。

入江/私も子育てをしていますが、今の子どもたちは夏に屋外で遊びにくい状況にあると感じています。児童育成クラブ(学童保育)も、保育園も、そうです。私はてっきり子どもが夏も外で遊んでいると思ったら、9月下旬になった頃に子どもから「やっと外に遊びにいけたよ」と聞いて愕然としました。外で体を動かすこと自体が限定的になっている。本気で取り組んでいかなければいけないテーマだと強く感じています。

――これまで取り組んできた具体的な活動内容などについて教えてください。

入江/サステナビリティ部の発足に伴い、まず取り組んだのが社内の理解を深めていくことでした。サステナビリティを実践する場は、試合運営という点では競技運営部やチケット販売を担当する部門、世間への発信を担うのは広報、スタジアム基準についてはスタジアムライセンス事務局、社内については人事や総務など、多様な部門に存在します。そのため、各部門の担当者の理解と協力を深めることが先決だと考えました。

また、社会連携活動「シャレン!」からサステナビリティへと活動を広げるなかで、「どこに向かっていくのか」を共有することも大事だと考えました。そこで、立ち上げ当初の1年間はロードマップ作りにじっくり取り組み、これに基づいて具体的なアクションを始めたのが2024年になります。

具体例の一つが、「Jリーグ×小野伸二 スマイルフットボールツアー for a Sustainable Future supported by 明治安田」です。Jリーグ特任理事の小野伸二さんをメイン講師に迎え、小野伸二さんだからこそ伝えられるサッカーの楽しさや喜び、素晴らしさを感じていただくこと、サッカーを通して気候アクションの重要性を理解していただくことを目的としています。

辻井/認知を高める活動と平行して、気候変動そのものを緩和するためのアクションの一つとして、再生可能エネルギーに関するプロジェクトにも取り組んでいます。Jリーグでは、公式戦の全てを実質再エネで運営していますが、これは世界的に見てもほとんど例がないことです。最近では、ホームタウンで再エネを広げるために取り組むクラブを後押しする助成制度を立ち上げ、現在はガイナーレ鳥取、水戸ホーリーホックで導入に向けた動きが進んでいます。

多くの人が地球環境と真正面から向き合うため、社会に波紋を生み出したい。

――活動を推進する上での課題や障壁などについて教えてください。

入江/気候アクションはとても専門性が高い分野です。2023年にJリーグは全公式試合1220試合を「実質再エネ」で運営しました。Jリーグとしては初めての取り組みで、まず試合会場で排出している二酸化炭素(CO₂)の量を算定する必要がありますが、こうした知識を持つ人はリーグの中にいませんでした。また、Jリーグ特任理事の夫馬賢治さんや外部の専門家の協力を得て、やっと知識が追いついてきても、算定のための必要なデータを取得するのに苦慮する場面も多くありました。

辻井/入江さんが言うように、環境問題自体に取り組むことは簡単ではありません。けれども、取り組まなかった場合に社会全体が直面することになる困難さを考えれば、少しずつでも前に進むしかありません。

日本でも、これまでの知見では予測できない自然災害が頻発していて、これからもそうした自然災害は痛ましい影響を社会に与え続ける可能性が高い。そうしたことを考えると、クラブや自治体など大勢の関係者に協力いただいてデータを取得することの意義も見えてくるのではないでしょうか。

――今後取り組んでいくことや、数値的な目標などについて教えてください。

辻井/究極的には、社会全体の持続性を高めていくことが何よりの目標です。このまま何もしなければ、人間がこれまでのように暮らしていけない社会になるのは間違いないわけですから。気候変動という観点では、引き返すことの出来ない、いわゆる「ティッピング・ポイント」まで5年半しかないとも言われています。

Jリーグは百年構想という言葉を掲げていますが、入江さんが先ほど触れたスマイルフットボールツアーに参加してくれている小学生たちが大きくなった時に、元気に暮らすことができる社会、地球であってほしいと思います。そのために社会の一員として出来得る限りのアクションを起こしていければと思います。

そのためには、まず、Jリーグとクラブ自身がクリーンな運営をしなければならない。先ほどからCO₂の排出量を算定し、それを0にしなければならないとお話してきたのはそのためです。一方で、サッカー界が排出しているCO₂は、日本全体の12億トンという排出量に比べれば微々たる量とも言えます。そういう意味では、Jリーグ自らがクリーンになるだけでは不十分で、クラブ、ファン、サポーターの皆さまや自治体、パートナー企業、地域の方々といったステークホルダーと一緒に、より大きなインパクトを生むことが大切です。例えば、クラブが中心になって自然環境にも地域経済にも良い影響を与える小さな再エネ事業が生まれれば、社会からの注目度も高まり、地域の人たちが前向きに考え、行動するきっかけになるかもしれない。そういう波紋を生むような存在を目指していきたいです。

Jリーグを通じて社会を笑顔し、未来の人に感謝される仕事ができる。

――このプロジェクトを通じて感じた、Jリーグで働く魅力について教えてください。

入江/私はスポーツを通じて子どもたちが笑顔でいられる社会を実現したいと思っていますが、この想いを本当にストレートに実現できる組織であることがモチベーションになっています。そして、Jリーグは全国各地にJクラブがあり、面として活動を進めていくことができます。それが大きな魅力だと思います。

辻井/入江さんの言葉にとても共感します。Jリーグを応援して下さる方々は、クラブを中心に地域の中で紡ぎだされるさまざまなモノガタリに共感して下さっているのではないかと思います。それは、お金を出してモノを買うことで得られる幸福感や充足感とは違うものです。僕自身は、そうしたモノガタリが生まれる土台となる自然環境や地域社会をより持続可能な形で支える一員になれることに喜びを感じています。

そして、もう一つ。実際に働いてみて、Jリーグのスタッフは、とにかくオープンマインドで、畑違いの分野から入って来た私の考えを取り入れてくれますし、仕事を通じていろんなチャレンジをさせてもらえています。そういう意味でも、自分なりの信念を持って「これがやりたい」と思うことがある人にとって、Jリーグはとてもいいプラットフォームだと思います。